「入門 公共政策学 社会問題を解決する『新しい知』」

今年度(2020年度)の霊長類学会大会で 「絶滅危惧種の違法取引と大型類人猿のエンターテイメント利用に、専門家としてどう向き合うか」という自由集会の企画・運営に関わりました。チンパンジーがバラエティ番組で芸をさせられたり、スローロリスなどの希少な霊長類種がペットとして取引されている現状に対して、研究者が何をできるか、すべきか、を議論する集会です。この問題については稿をあらためて書くことがあろうかと思いますが、集会のコメンテーターとしてお招きした神奈川大学の 諸坂さんが、何かを「公共政策」として行う際の条件についてお話されました。非常に有用なコメントでしたが、「公共政策」という言葉は耳慣れない言葉でした。そこで、もっと知りたいと思い、年末年始にこの本を読んで勉強してみました。

入門 公共政策学 社会問題を解決する「新しい知」 (中公新書) amazon.co.jp

「公共政策」とは、簡単にいうと「社会で解決すべき問題と認識された問題を解決するための方向性と手段」のことです。わたしたちは日頃の生活のなかでさまざまな不便や不都合、困りごとを抱えています。それらの問題の中には、個人で解決しなくてはならない問題もあれば、社会全体で対応すべき問題もあります。後者が「公共的問題」で、それを解決するのが「公共政策」です。

この本では、日本における具体例を挙げながら、さまざまな不便や不都合がいかにして「公共的問題」として認知されるのか、そして、公共的問題が認知されたあと、どのようなプロセスを経て公共政策が実行されるのか(=解決のためのアクションが行われるのか)がわかりやすく解説されています。

この本を読んでもっとも認識を改めさせられたことは、公共政策には多種多様な人が関わるということです。政策というくらいだから、それを行うのは行政つまりお役所だろうと思ってしまいがちですが、そうではない。もちろんお役所は公共政策において中心的役割を担います。しかし、それだけではなく、問題の認知から政策の実行、評価までの一連のプロセスにおいて、非常に多くの人が関わるということがわかりました。たとえば現在コロナ対策を議論する「分科会」や「アドバイザリーボード」のメンバーには政治家でも役人でも無い人が、まさに専門家として関わっています。

また、公共政策の基本的なフレームは、公共政策に限らず、大学や学会などの社会組織や、研究チームのような小さな集団の内部における一般的な課題解決にも応用できそうで、非常にためになりました。個人的問題の解決にすら応用できそうです。へたな自己啓発本を読むよりもずっと日常の「困りごと」改善に役立ちそう。

さらに、日本における実際の公共政策のしくみを知ることで、自分自身が「社会で解決すべき問題と認識したこと」をどのように訴えてゆけばいいのか、ということについても多くの示唆を得ることができました。自由集会のテーマであった大型類人猿のエンタメ利用の問題についても、具体的に次のステップを描くための助けになりそうです。

あと思ったのが、公共政策の基本的フレームと科研費や研究助成の書式は似ている!ということです。考えてみれば研究だって何らかの「問題」を解決するために行うわけだから、基本的な考え方は同じになって当然です。これを参考に、通る申請書をかけるようになれたらいいな。

竹ノ下祐二
竹ノ下祐二
理学療法学科 教授

専門分野:人類学・霊長類学、生物多様性保全学、子ども学