ヒトとヒト以外の霊長類の prosociality について (Jaeggi et al. 2010)

Jaeggi AV, Burkart JM and van Schaik CP 2010. On the psychology of cooperation in humans and other primates: combining the natural history and experimental evidence of prosociality Philosophical Transactions of the Royal Society, 365:2723-2735 http://dx.doi.org/10.1098/rstb.2010.0118

ヒトとヒト以外の霊長類における協力の心理に関するレビュー。協力行動に関するさまざまな実験研究と、より自然な状況における食物分配に関する研究をもとに、ヒトとヒト以外の霊長類における"協力の心理"の違いと、その進化を論じた。

まず、著者らは協力には reactive なものと proactive なものがあると述べる。前者は、他者からの求め、他者のおかれている状況、第三者(オーディエンス)の存在など、外的な刺激に対する反応として生起する協力。後者はまったく自発的になされる協力である。

チンパンジーやオマキザル、マーモセットの仲間や、マカクでさえも、reactiveな協力行動を示す。ただし、かれらとヒトとでは、reactiveな協力の生起要因に大きな違いがある。ヒトは、他者からの助けを求めるシグナル(signal)だけでなく、他者が助けを必要としている兆候(sign)に対しても反応するが、ヒト以外の霊長類は助けを求めるシグナルなしには反応しない。

また、ヒトはオーディエンスがいるとよりreactiveになるが、ヒト以外でオーディエンスの影響がみられるのはマーモセット科のみである。 Proactiveな協力も、ヒト以外でみられるのはマーモセット科のみである。

オーディエンスの存在や、proactiveな協力がヒトと最も近縁なチンパンジーではみられず、協同育児を行なうマーモセット科でのみみられることから、著者らは協力の進化と協同育児とは密接な関係があるとする。

協同育児を人類の社会進化の基盤にすえる著者らの主張には異論がある。しかし、協力の心理に関する論点の整理のしかた(reactive vs proactiveとか、signalとsignの区別とか、オーディエンスの存在への考慮など)は参考になった。

竹ノ下祐二
竹ノ下祐二
理学療法学科 教授

専門分野:人類学・霊長類学、生物多様性保全学、子ども学