ヒトの石器製作文化とteaching、言語の共進化 (Morgan et al. 2010)

Morgan TJH, Uomini NT, Rendell RE, Chouinard-Thuly L, Street SE, Lewis HM, Cross CP, Evans C, Kearney R, de la Torre I, Whiten A, Laland KN. 2010 Experimental evidence for the co-evolution of hominin tool-making teaching and language Nature Communications 6 https://doi.org/10.1038/ncomms7029

現代人に石器製作を覚えてもらい、さらにそれを別の人に学ばせるという実験によって、石器製作文化とティーチング・言語が共進化したことを強く示唆する研究。おもしろいことを考えるものだと思った。

まず、被験者の一部にオルドワン石器の作り方を教える。そして、ほかの人には次の5つの方法でその伝達を試み、伝達の正確さや効率を調べた。

  1. リバースエンジニアリング。作られた石器だけを見て、自分で工夫して同じものを作ろうとする。
  2. 石器製作を習得した人のやるところを横で見る。習得した人はただ作るだけ。
  3. Basic teaching。これはよくわからないが、作っている人がよく自分の様子をよく見えるようにしてやったり、作る速度を落してやることだろう。
  4. ジェスチュアによる教示。言語は使わない。
  5. 音声言語による教示。

すると、リバースエンジニアリングと観察学習では、オルドワン石器をきちんと作れるようにはならないことがわかった。つまりオルドワン石器の作り方が社会に伝播するにはティーチングが必要で、しかも言語によるティーチングがとても重要だとわかった。また、他人から学んだ人から学ぶ、というように連鎖的に学習させると、ジェスチュアや言語なしには石器製作技術はどんどん劣化していった。

このある意味単純な実験から、著者らは初期人類における石器文化を遺伝子と文化の共進化 (gene-culture coevolution) の一例だと論じる。オルドワン石器のつくり方が社会学習で広まるには、積極的なティーチングや言語(のもとになるようなシンボル操作能力)が不可欠であった。オルドワン文化はきわめてゆっくりと伝播していったが、それは、当時はティーチングや言語能力の萌芽はなかったからであろう。しかし、石器文化が定着すると、その文化によって、ティーチングやシンボル操作能力に正の選択圧がかかるようになる。つまり、文化が遺伝子の選択圧を決めるのだ。そして、(遺伝子の)進化によって初期人類がティーチングやシンボル操作能力を獲得すると、それまでは難しすぎて伝播しづらかった複雑で洗練された石器製作技術が伝播しやすくなる。つまり、遺伝的形質が文化の伝播のしやすさを決める。この、遺伝子進化と文化進化 の相互作用が、アシューリアン石器文化として結実したのだという。

竹ノ下祐二
竹ノ下祐二
理学療法学科 教授

専門分野:人類学・霊長類学、生物多様性保全学、子ども学

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