ゴリラ射殺事件の取材を受けて感じた、テレビ報道の問題点(1)

先日、 シンシナティ動物園のゴリラが射殺された事件に関して というエントリーを公表しました。元はTwitter上の連続ツイートでしたが、あのような連続ツイートをしようと思ったきっかけは、私自身がこの件に関してある報道番組の製作者から取材を受けたことです。

担当者とのやりとりから、その番組には事実をありのままに報道する意思がないと判断せざるを得ませんでした。同時に、先方からも私からは番組にとって都合のよいコメントは得られなさそうだと判断したようで、収録はお流れになりました。

ワイドショーや情報バラエティ番組の作り手には、本当にひどい態度の人がたくさんいます。多くの場合、放送まで時間がないなどと言って、こちらの都合におかまいなしです。いついつまでに回答せよとファックスを送りつけてくるなどというところもあります。研究者としては、自分の詳しい分野について少しでも一般社会にちゃんとした情報を伝えたいと考え、できる限り協力するのですが、たいていの場合、散々振り回された挙句に、それは裏切られます。そして、そのようなことは、私だけでなく、テレビ番組から専門分野についてコメントを求められたことがある人なら誰もが経験したことがあると思います。

しかし、今回取材してきたのは、バラエティ色は強いものの、報道番組でした。そして、直接私に取材をしてこられた方は、とても真面目にこちらの話を聞いてくれました。だからこそ、最終的に私の見解が捨てられてしまったことは残念でした。また取材者の態度といった問題ではなく、番組の報道姿勢に横たわる問題が見えてきた気がします。それを2回に分けて記してみます。

このエントリーは特定の番組を批判する意図で行うものではないので、番組名は伏せます。当該の番組を見ていた人はわかると思いますが。

番組制作会社の方からメールがあったのは、放送の4日前でした。ウェブに公開されている映像を見てゴリラの行動について、解説してほしいとのことでした。映像を見てから電話をいただき、私が話したことは 前回のエントリーの通りです。一通りコメントをしてからいくつか質問に答えました。誠実に話を聞いてくださり、また質問も的確でよい印象を持ちました。だから、研究室でコメントを収録することは可能かと問われ、OKしました。

ところがです。

同じ方から何度も"確認したいこと"の電話とメールがありました。その内容は一貫していて、以下の2点でした。

  1. ゴリラのディスプレイは 「観客に対して、観客を威嚇するために」 なされたものか?
  2. 幼児を引きずり回したのは 「ディスプレイの一部」 か?

これに対する私の答えは、前者に関しては「NO」、後者に関しては「NOだと思うがわからない」です。映像を見るかぎり、私にはゴリラのディスプレイが特定の誰かに向けられているようには見えません。ゴリラのディスプレイとはそういうものです。特定の対象に向けられることもありますが、非特定の「周囲」に向けられることも多い、ブロードキャストな行動です。

ゴリラが突進ディスプレイの際に枝などを引きずることはありますが、頻度は多くありません。ただ、ないわけではないし、動物園では野生ではあまり見られない行動を取ることもあります。当該のゴリラがよく枝引きずりをする個体だったのかもしれません。少なくとも私の目には、幼児を枝代わりにしているようには見えませんでした。そして、「幼児を引きずろうとして引きずったのか、ディスプレイの道具として引きずったのか」はゴリラの心の問題なのでわかりません。

このように説明すると、担当の方は納得するのですが、しばらくすると「上と相談した結果、もう少し確認したい」と電話があり、同じ質問をされ、同じ回答をするということが繰り返されました。

私はそれで、 この人たちは、「ゴリラは騒ぐ観客を威嚇するために幼児を引きずるディスプレイをしたのだ。悪いのは観客だ。」というストーリーを作りたいようだ と感じました。そのストーリーが間違いとまでは言い切れません。可能性はあります。しかし、私はそのストーリーには賛成しません。だから、私がそのようなコメントをすることはできない、といい続けました。話は平行線のまま、放送2日前に「報道の方向性が定まらないため、とりあえず収録はなしにしたい」という連絡があり、取材は終わりました。

発言の一部を切り取られる収録は好きではありませんが、大学名がクレジットされるとPRにはなるので少し残念ではありました。しかし、それよりも、このまま放置してしまうと、きっと彼らは自分たちのストーリーに沿ったコメントをする人を見つけてきて喋らせるに違いない、ということの方が腹立たしく思われました。幸い今は一般人がソーシャルメディアを通じた発信をできる時代です。そこで、番組が放送される前に、専門家のはしくれとして 「わからないことはわからないのだ」 と発信しようと、一連のツイートをし、エントリーにまとめたのです。

(続く)

竹ノ下祐二
竹ノ下祐二
理学療法学科 教授

専門分野:人類学・霊長類学、生物多様性保全学、子ども学

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