知的生産の技術

今年は初心に帰ろうと思い、大学一回生のときに読んだ「知的生産の技術」を読みなおしてみました。最近は大学でも「スタディスキル」を教えなくてはならないということになって、たくさんの教科書や参考書が出版されています。しかし、再読してあらためて思いましたが、本書が「スタディスキル本」のさきがけにして決定版です。

知的生産の技術 (岩波新書) amazon.co.jp

本書が書かれた時代には、今のように便利な「仕事効率化」のためのデジタルツールはありませんでした。だから、本書に書かれている情報整理の手法やノウハウは、時代遅れに感じるかもしれません。「仕事効率化」のノウハウを学びたい人は、流行りのデジタルツールの入門書などを読んだほうがいいでしょう。

そのかわり、本書には「知的生産」についての哲学が明快に示されています。そして、具体的な情報整理手法はその哲学にもとづいて構築されています。その哲学こそが、重要だろうと思います。学生、研究者として知的生産活動を行なうひとは、やみくもにノウハウ中心の「スタディスキル本」のまねをするより、本書を読んでそのフィロソフィーを理解したうえで自分なりのやりかたを試行錯誤して身に付けるべきです。

そして、そういう哲学は、日々の仕事に追われていると忘れてしまいがちです。めあたらしい「仕事術」本をあさるくらいなら、時折、本書を読みなおして、「本筋」をたしかめるほうがずっと効果的でしょう。

さてその「本筋」とはどのようなものでしょう?

まず、「知的生産」の定義です。それは、「あたらしい情報をうみだすこと」です。あたらしい情報をうみださない知的活動は「知的消費」です。「スタディスキル本」の多くは、知的生産活動と知的消費活動の区別がきちんとできていないように思います。この区別は、存外に大事ではないかと思います。 (もちろん、知的消費活動は悪いことではありません。)

そして、情報整理の技術を身に付けることの目的です。それは効率ではありません。では何か。「整理や事務の技法を考えることの効能は・・・(中略)・・・けっきょくは能率向上につながることなのだが、大もとの目的は、落ちついてものを考える環境とつくることである。」とあります。

PCやスマホアプリのカテゴリーで “productivity” は「仕事効率化」と翻訳されています。仕事術の王道ともいえる “GTD (Getting Things Done)” は「知的生産のための方法論」であるとうたっていますが、その効能としてあげられているのは効率化です。

しかし、効率化は結果であって、目的ではないのです。目的はあくまで、おちついた環境でじっくりものごとを考え、質のたかい情報をうみだすことにあるのです。

竹ノ下祐二
竹ノ下祐二
理学療法学科 教授

専門分野:人類学・霊長類学、生物多様性保全学、子ども学